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宇乃はそのまま坐っていた。玄察の話しを聞いているあいだに、(話しの内容とはかかわりなく)甲斐の姿がありありと眼にうかぶように思われた。酒井邸の出来事が、公表されたとおりであるにせよ、裏に隠されたしんじつがあるにせよ、いまの宇乃にとってはさして関心はなかった。宇乃は早くから、甲斐がなにごとか為なそうとしていたのを知っている、甲斐は多忙で、話しあう機会もそう多くはなかった、二人だけになっても、政治向きの話しなどはしたことがない。けれども、十一年このかた見たり聞いたりしたこと、慶月院のようすや、甲斐の身辺に起こったかずかずの変化は、甲斐がなにごとか為そうとしている、ということを明らかに示していた。
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